核医学治療(RI内用療法)ーがん撲滅にむけてー 

はじめに

わが国において、がんは死亡原因の第1位であり、がんによる死亡者数は37万人を超え(2016年)、今や3人に1人ががんにより亡くなっています。また、がん患者数は増加の一途をたどり、国民の2人に1人にがんが見つかる時代となりました。

がん治療の3つの柱は、手術、化学療法、放射線治療ですが、近年のがんに対する放射線治療の進歩は目覚ましく、新規治療法の開発とその普及への期待はますます大きくなっています。今後もがん患者が増えることを考えると、効果的な放射線治療へのアクセスが、国民の今日的なニーズであり、国家にとって緊急の課題であるといえます。

放射線の特性

「放射線」は「放射性物質」から放出される粒子や電磁波(光の仲間)ですが、見えず、聞こえず、無味無臭で、触れてもわかりません。不安定な原子は、" 安定 "したものになろう、と余分なエネルギーを原子から放出します。この放出された高いエネルギーを持った粒子や電磁波(光の仲間)が、多くの放射線の正体です。

放射線は、α(アルファ)線、β(ベータ)線、γ(ガンマ)線、X(エックス)線、中性子線といった種類があり、それぞれ、透過力や飛距離、半減期、生体に対する影響が異なります。

放射線のがん治療への応用

放射線はDNAにダメージを与えますが、その特性を生かして無秩序に増えるがん細胞の増殖を抑えることができます。これを利用したものが放射線治療です。

放射線治療と核医学診療

放射線治療には、放射線を身体の外から照射する方法と身体の内側から照射する方法があります。また、放射性同位元素(RI,アイソトープ)を体内に入れて診断や治療を行うことを核医学診療と呼んでおり、特に治療をRI内用療法といいます。

RI内用療法

放射性同位元素を医薬品として治療目的で経口または静脈内投与して、がんの病巣部へ直接放射線を当てることによってがん細胞のDNAを特異的に叩くピンポイント療法です。

苦痛はほとんどなく、正常な細胞への影響が少ないため、他に治療手段のないがん疾患で大きな治療効果が期待できます。近年、このRI内用療法の進歩に注目が集まっています。

現在 日本で利用可能なRI内用療法

現在、日本で行われているRI内用療法は下表の通りです(2018年2月現在)。

図 甲状腺がん 肺転移患者のヨウ素131治療

グラフ 年間核医学治療実施数の推移


RI内用療法についての現状と課題

RI内用療法については、医薬品として承認されているものであっても、施設において利用できる放射能量に上限があり、患者が効果的なRI内用療法を受けられない場合があります。また、日本では新薬の開発が遅れていて、海外で実施可能なRI内用療法が国内で受けられないという課題があります。つまり、がん患者にとって不利益な状態にあるといえます。特に近年、悪性神経内分泌腫瘍に対するRI内用療法を求めて、海外に渡航する患者が増えているという、ゆゆしき事態となっています(2017年、企業治験がようやく開始されました)。さらに世界的に患者数が増加している去勢抵抗性前立腺がんに対するルテシウム177-PSMA RI内用療法の開発が盛んに行われるようになってきましたが、この治療の開発もまだ国内では進んでいない状態です。

現在、RI内用療法の治療実施可能な病床が不足しており、病床数の地域差も大きなものとなっています。また、十分な診療報酬がないために、病床維持ができず、病床を閉鎖する病院が多くなっています。それにより、既存の核医学治療ですらすぐに受けることが困難な状況となっています。さらにこのことは、新しい放射性医薬品の開発を妨げる要因のひとつにもなっています。


我が国でRI内用療法が発展しないもうひとつの原因として、放射線の医療応用において法による二重規制という問題が指摘されています。医療における放射線の規制には、原子力規制庁管轄の放射線障害防止法と、厚生労働省管轄の医療法・薬機法があります。国内での新薬の開発には、これらの法律に基づく認可を受ける必要があるため、著しく困難です。結果として、上記の病床不足と相まって、国内開発を一層困難にしています。

以上のごとく、核医学治療の環境悪化と新規放射線医薬品の開発・導入の遅れなどによって、わが国のがん患者が効果的な治療を受けられない不利益が大きくなっています。これらのことは行政府にも認識され始め、2017年10月24日に公表された第3期がん対策推進基本計画には、初めて"核医学治療の体制整備"の必要性が盛り込まれました。

今後の課題

私たち「核医学診療推進国民会議」は、これらの課題を解決するため、以下の提案を続けていきます。

1. 原子力規制庁の放射線障害防止法と厚生労働省の医療法・薬機法による二重規制の解消

2. 放射線治療が可能な病床数の増強

3. 未承認薬の早期承認

4. 医療従事者および一般国民に対する核医学治療の啓発活動の推進