第1回 核医学診療推進国民会議 通常会員総会記

2017年10月13日

パシフィコ横浜における第57回日本核医学会学術総会/第12回アジアオセアニア核医学会学術会議(AOCNMB)会期中の2017年10月6日に、43名(会員登録中の方を含む)の参加を得て本会議第1回会員総会を開催いたしました。我が国で、医師・研究者・企業の方々、そして患者会の方々が参集し、核医学診療、特に内用療法の将来についてこのような形で議論されたのは、史上初のことだと思います。総会の概要は、本会議HPへ後日掲載予定の議事録をご覧いただくとして、私が感じたことを簡単にまとめさせていただきます。

がんに関わる政府施策原理である第3期がん対策推進基本計画がほぼ最終案となっており、厚労省から公表されるようなタイミングになっています。第1期・第2期基本計画には、放射線治療(外照射)については言及されていましたが、今回、はじめて"核医学治療"という名前で内用療法が計画に盛り込まれることとが、ほぼ確定された状態となっています。これは、一昨年の衆議院国会における核医学治療にかかわる趣意書に対する安倍首相の答弁、昨年来厚労省に出向している核医学医師(大阪大学核医学渡部直史先生、金沢大学核医学稲木杏吏先生)の獅子奮迅の活躍、そして後述の佐々木課長に負うところが大ですが、小さな背景因子として本会議の存在もあったことと推察します。基本計画に盛り込まれるこれからが正念場だと思います。ところで先に記載したように、基本計画では"核医学治療"という用語で盛り込まれることになっています。したがって、今後、この用語で議論・会話をするのが、推進力増強に望ましいと思われます。

総会直前に、本会議設立のきっかけの一つとなった、手術不能な神経内分泌腫瘍に対する内用療法(177Lu-PRRT、Lutathera®)が、9月29日にヨーロッパ諸国で承認されたというニュースが入ってきました。米国でも承認に近いと伺っています。この治療承認は、ヨーロッパの研究者の長年の努力の結実です。AOCNMBでご一緒させていただいたドイツのRichard Baum先生は、"20年かかったよ"と感慨深げに私に話してくださいました。ここ数年、スイス・バーゼル大学、ドイツ・ビュルツブルグ大学に患者さんたちが治療を求めて渡航されていたことは、この記事を読んでおられる皆さんはご存じであると思います。現在、国内でも、ようやく1相企業治験が開始されましたが、一刻も早く、保険診療が行える医療環境を作ることが求められます。そこで、グローバルな大規模二重盲検臨床試験の結果、ヨーロッパ承認を受けた事実をもって、国内での安全性の確認により公知承認していただくよう、国民会議として行政に要望書を提出することとしました。

さて、本会議の主活動のひとつは、行政・立法に関わる方々に核医学治療を含めた核医学診療を理解していただき、進めることにあります。この目的のため、基本計画公布に同期させて、国会議員の方々に説明をさせていただく機会を定期的に設けることを考えようということとなりました。過去に、核医学分野でこのような考えの基に理解を得ることを求めるため、継続的に活動したことはなかったのではないかと思います。国民会議というプラットフォームに加わっていただいた皆様の声を集約して、事に望もうと考えています。

日本核医学会学術総会/AOCNMBでは、厚労省医政局地域医療計画課佐々木 健課長、原子力規制委員会原子力規制庁長官官房放射線防護グループ放射線規制部門奥 博貴氏をお招きし、本会議副代表眞島、大井両氏、会議の諸々の実務にお力添えをいただいている日本アイソトープ協会中村伸貴氏、福島県立医大織内 昇先生、放射線総合医学研究所東 達也先生を講師に迎え、"内用療法の国内開発のために"とタイトルした特別シンポジウムを開催させていただきました。壇上の司会席から場内の参加者を粗々とカウントしたところ、約250名と非常に多くの方がシンポジウムに加わっていただいたことわかりました。佐々木課長からは、厚労省内に議論の場として設置された"医療放射線の適正管理に関する検討会"において、退出基準等々の見直しが必要であろうとお話しくださいました。また、奥氏からは、未承認放射性薬の取り扱いを、障害防止法の除外規定の中でなんとかならないかという趣旨のことを言われていました。つまりは、関わっている2行政府が、我々の臨む方向のことを議論していただいていることかと理解します。

シンポジウムの中で、大井さんからいただいた市民参加アドボカシー、Grassroots lobbyingという活動概念、眞島さんからいただいたevidence based advocacy、multi-stakeholderでの活動(まさに国民会議)等々のキーワードは、今後この会議が進むべき道を端的に示していると思います。眞島さんはこうもおっしゃられました。"multi-stakeholderでの活動において、日本は20年遅れている"と。Baum先生が私に告げた"頭のスイッチを入れ替えろ"という言葉は、まさにこのことを意味していたものです。

患者さんのために、皆さんと一緒に活動できることに感謝いたします。

核医学診療推進国民会議代表 絹谷清剛

平成29年10月12日